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読書記録:筒井康隆『残像に口紅を』

2015年11月7日(土)

ま〜た古い本を持ち出しちゃって、すみませんm(_ _)m
例のコーナーの第3弾です。

3. 筒井康隆『残像に口紅を』 中公文庫、1995年4月改版(初版1989年)、中央公論新社

       *   *   *

このコーナーのきっかけである『創作の極意と掟』では、「実験」の章で取り上げられている本作ですが、

ここでの「実験は」、物語が進むにつれて「音」を消していき、するとその「音」を含む物事もすべて存在しなくなってしまうというもの。

たとえば、「ぱ」という音が消えると世界から「パン」も消えてしまいます。
ただし、世界の始まりから存在しなかったことになるわけではなく、ある時点で強引にないことにされてしまい、人々の記憶からもそれが奪われる、というルールのようです。

だから、ついさっきまでパン屋であったその店から突然パンがなくなり、看板から文字も消え、空っぽになった棚を見て店員も客も呆然とするのですが、そこに何があったのか、何があるべきなのか、自分は何を買いにここへやってきたのか、どうしても思い出せません。
そして、「あるべきものがない」という欠如感や喪失感だけが人々の心に残るという仕掛けです。

       *   *   *

本作のもう一つの特徴は、筒井氏お得意のメタフィクション構造。

そもそも「世界から音を消す」という試みは、主人公である小説家・佐治と評論家にして大学教授である津田とで考案したもの。
つまり、佐治の新作小説として、表現する道具としての「音」が消滅すると共に表現される「実物」も消失する世界の<物語>を創出し、それを自分たち自身が体験します。

彼らは、彼らが生きる現実世界に小説世界という虚構を持ち込み、その虚構のなかを現実に生きます。
そして、佐治に近しい登場人物たちも、やがてこれが佐治の作り出した虚構世界であること、自分もまた「虚構内存在」であることに気づき、そのなかで如何に生きるかを考え、行動します。

       *   *   *

…なんて書くと、「存在」をテーマとしたけっこう重たい、ド迫力の作品かと思われるかもしれませんが、3番目の特徴として、筒井氏はこれをあくまで「エンターテインメント」作品として成立させようとします。

なかば、おふざけ的な。

「実験」とはつまり「遊び」なんだから、普段は禁じ手にしていることもやってみるし、下らな〜いことも書いてみよう…そんな感じです。

       *   *   *

で、最後にチョロっと感想を書くと…。

結局、主人公・佐治の言葉のごとく、「曲芸」なんですよね、これ。
基本的に、佐治は物語を継続し完結させることを目的としているため、次なる展開への動機が弱い。
もちろん、編集者たちも消えていき、締め切りも消えていくので、虚構内での「執筆」という設定上のやるべきことも失われていきます。

さて、次は何をすればいいんだろう

主人は度々この問題にぶつかってしまいます。
そして、読者を飽きさせないようにと、筒井氏があの手この手とまさに「腕」を披露するシーンが作られていきます。

こんな制約下でも、こんなことができるよ。
こんな制約があるからこそ、こんなことを思いついたよ。

ま、それはそれで、楽しめるんですけどね。

でも、それはつまり、全体を貫く物語が弱いことの穴埋めであって、正直、退屈。

さらに、最後は音の消滅と世界の消滅と物語の完結とを重ねなければならないので、使える手も絞られてくるわけですが、ぶっちゃけ残り30頁ほどでラストが読めてしまう。

そして、読了とともに何もなくなって、読後感すらなし。
心にさえ、文字どおり「何も残らない」。

潔いと言えば潔いのかもしれませんが、時間のムダと言えなくもなく。

       *   *   *

それから数日。
なんで詰まらないのかなと思って、ふと思い出したこと。

序盤でクソだと思いながら中盤から楽しくなっていった『虚人たち』は、下らないことを散々やりながらも、やはり筋とテーマががっちりしていたと思うんですね。

両作を比べて、「そっか」と思い当たった今回の結論。

「実験的作品」と「実験のための習作」とを分けるのは、物語。


おしまい。



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