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周回遅れの読書記録:内田洋一『風の演劇 評伝別役実』

2021年3月7日(日)

貧乏暇なしと言いますが、緊急事態宣言も開けぬなか、仕事のほうは、お構いなしにドド〜ンと押し寄せてまして、2021年内はもう入れられない…というか、すでに許容量を超過している状況です(ToT)

そんなわけで、週末も家庭のイベント&家事手伝い以外は仕事(出勤or在宅)、芝居も観に行けないし、呑みにも行けない、読書も仕事に必要な文献・資料を読むのに精一杯で、自分の楽しみで買った本は積み上げられたママ…

となると、ブログに書くことがないっ

しかし、せめて友人・知人に「とりあえず、生きてますよ」という報告はしておきたい

…と困っていたら、ふと、去る3月3日はあの人の一周忌だったという記事を見かけまして、遅ればせながら、駄文をば一つm(_ _)m

   *   *   *   *   *

20210307別役風の演劇_convert_20210307104411

内田洋一『風の演劇 評伝別役実』
白水社、2018年

言わずと知れた、日本のベケットこと別役実氏の評伝。
著者の内田氏は日経新聞の文化部で活躍された記者(現・編集委員)で、本書は別役氏が読売演劇大賞の芸術栄誉賞を受賞した2012年から取材・執筆を始め、パーキンソン病を患う別役氏の体調が徐々に悪化するなか、インタビューを重ねたものだそうです。

ちなみに、私は不条理劇に愛着があるわけでもなく、造詣はまったくないのですが、
とはいえ、別役実と言えば日本演劇界の巨人ですので、
「こういう人は何を考えているのかな」と興味を覚えて、
戯曲そのものよりは(ごめんなさい)、エッセイや評伝の類をつい買ってしまうのです。

       *   *   *

さて。
同時代人の評伝モノで一つ興味深いのは、筆者がまず自身の「語る資格」について語ること。

1960年生まれで83年に日経入社、翌年から文化部配属となって舞台芸術の取材を始めた内田氏は、別役氏に対して明らかに「遅れてきた観客」。
しかも、演劇専門ではなく美術・音楽分野も担当し、デスクになれば取材に出る機会も制約されるなど、どうしても別役Watcherとしてはアチコチ穴が空いてしまう。
その状態でモロ同時代人を含めた読者に<評伝>を届けるというのは、なかなか勇気の要る仕事で、それに対する EXCUSE がチラチラと垣間見えます。

これが、同じジャーナリスト出身でも扇田昭彦氏になると、完全なる同世代。
60年代演劇の旗手たちに(反発しながらも)継承されている前世代からの影響もフォローしつつ、同時代人として伴走しており、そうした自負・自信が文章の落ち着きにも見られ、むしろ、それらを総括する責任を負っているようにすら感じられます。
ただし、2015年に亡くなった扇田氏には、彼らの到着点を最期まで見届けることはできなかった。

逆に、もっと若い世代になると、「別役実」も完全に「歴史」として扱われるのでしょう。
いまや、「ベルリンの壁崩壊」が歴史であるのと同じようにベケットが「歴史」として扱われ、
続いてイヨネスコも、やがて別役氏も歴史となり、
そうした世代の書き手は、「同時代人たちの目」から解放され、次代の読者と同じ立場で、自らの問題意識のみに導かれて論ずることができるのでしょう。

そうした意味で、内田氏は別役実の語り手として<端境>の世代。
それゆえの難しさがあって、自らの身体経験で語る部分と資料に依拠する部分との濃淡がくっきり出ており、それが読み応えの差異にも影響しているのですが、
その一方で、<端境>だから書ける面もあるわけで、この世代による別役論が、このタイミングで出たのは、(いつか次世代の別役論を読むにあたっても)やはり貴重なことだと思うんです。

       *   *   *

こうした著者の立ち位置も影響してか…、

演劇以外(以前)の話が長いっ
しかも、別役以外の話も多いっ
加えて、しょっちゅう横道(小ネタ)に逸れるっ

別役演劇の基底を形作るもの、背景を成すものを描こうという著者の意図は理解しつつも、「アレもコレもと突っ込むな」とイライラすることも、しばし。
(お前のブログと同じじゃないかっ というツッコミはさておき

こちらとしては、「別役演劇論」に関心があるので、もっと1つ1つの作品・公演を取り上げながら、丁寧に紹介・考察してほしかった。

後半になって、「ようやく面白くなってきたかな」…と思って読み進めていたら、「アレ、もうオシマイ」と。

       *   *   *

ただし、「第9章」を読んで、そのワケがわかりました。
著者が別役氏に評伝執筆の承諾を求めた際の言葉…、

-------------------------------
別役実という存在を核にして時代史をまとめたいのです
-------------------------------

そうだったのです。
これは、

「大東亜共栄」「五族協和」といった幻想下、日本が植民地支配を広げていた1930年代の満州から始まり、
開戦と敗戦、引揚げ、さらに戦後の復興と成長、安保闘争を経て、
経済的豊かさに依拠した「脱戦後」神話とその半面にある社会の解体、
打ち続く犯罪、あるいは災害、そして不安…

といった現在に至るまでの日本社会の道程を、
「別役実」という一個の人間の来歴と仕事、思想と心理を通して描いた、
日本現代史だったのです。

       *   *   *

それ、先に言ってほしかったな〜(笑)。
「別役実への旅」なんて、曖昧な表現じゃなくてさ。

…と思わなくもありませんが、そうした視点で眺め直すと、たしかに面白い評伝だと言えます。

もちろん、
これらの社会背景をもって、ただちに「別役実を別役実たらしめたもの」と規定するのは早計でしょうが、
少なくとも、
別役氏(とその同時代日本人)がどのような社会の激変を生き抜いてのか、
それらに対して演劇(人)がどう向き合い、社会と切り結んできたのか、
そんなことを考えさせてくれます。

       *   *   *

以上が全体に対する雑駁とした感想ですが、細部についてもチラッとだけ触れておきましょう。
(以下、ネタバレ御免っ

別役氏が鈴木忠志氏と袂を分かち、早稲田小劇場を離れた理由。
演劇の身体性を強調する鈴木氏とセリフにこだわる別役氏との乖離、
また別役氏が経済的基盤を得る必要に迫られたことなど、
アレコレ言われていますが、加えて別役氏の

-------------------------------
僕はコメディが演劇の根底にあるんじゃないかと気づき始めていた。
-------------------------------

という言葉も紹介しておきたい。
コメディ、コント、ユーモア…こういったキーワードが、もう60年代後半から登場してくるわけです。

ただし、もっと興味深いのは、これに対する鈴木氏のコメント(要約)。
-------------------------------
別役がセリフ派でおれが肉体派なんて、ためにする議論。
鈴木の芝居はセリフがクリアで強い、世界でそう評価されている。
おれは文学青年だから、いい戯曲しかやっていない。
チェーホフ、ベケット、シェイクスピアにギリシャ劇、日本では谷崎、三島…。
生活の安定を目指さなきゃいけなかった別役が、文学座へ書いたのは当然。
こっちは、白石加代子みたいな女優が出てきたら、別役だけやってるわけにはいかない…。
-------------------------------

なるほど、な〜るほど。
とても説得力があります。

お次は、その後、自らの文体・演劇観を模索する別役氏による安部公房氏批判から(一部、改変)。
-------------------------------
<安部公房的不条理>
Aが死んだそうだね
まさか、Aが死ぬわけがない
本当だよ、Aは死んだんだよ
ウソつけ、死んだのはBさ

<別役実的不条理>
Aが死んだそうだね
何だって、Aが死んだって?
違うよ、Aが死んだんだよ
そうか、おれはまた、Aが死んだのかと思ったよ
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これ、要するに落語、すなわち<笑い>なんですね。

それから、不条理物語の解体へと進み、行き詰まっていた別役を、再び<物語>へと開眼させた田中千禾夫(ちかお)氏の思想を一つ(たぶん、著者による要約)。
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現代の劇作家は「物語」から解放されることにむなしく腐心しているが、劇作において「物語」が有効であることに変わりはない。「物語」からの解放は分解と分裂を生むにいたっているが、それらを再構成するとき劇的文体が改めて問題になってくる。
(『劇的文体論序説 上』より)
-------------------------------

実に、刺さりますね〜、この一文。

そして、やはり、本書を紹介するのに、最重要キーワードたる、「」と「デラシネ(déraciné)」に触れないわけにはいきません…

…が、
いや、やめておこう。

この点は、本書全体に通底しているので、それぞれ、ご自身で読んでいただくことに致しましょう(笑)。


あしからずm(_ _)m



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