2020年12月26日(土)
私の会社も社会的取組みに参画するとかで、仕事納めを前倒しして昨日25日(金)で年内はおしまい。
ただし、「どーしても28日(月)に出勤せねば」という人も若干数はいて、私もそんな人たちのためのカギ当番ということで、出勤予定…
という以上に、私こそ仕事が溜まっている「どーしても出勤せねば」組でして、28日だけでは終わらないと分かっているので、本日も休日出勤。
いやぁ、やっぱり休日出勤は仕事がはかどりますね〜。
(こういうヤツを、社畜と呼ぶんだな)
* * *で、予定していた仕事を片付けて、帰りにデパートへ。
ええ、そうです、
ハタと気づいてしまった嫁さんへの●●●マスプレゼント(笑)。
このところ、子どもの習い事なんかの送り迎えで寒そうなので、何か暖かいものをと、そんな感じの売り場へ。
と、陳列棚に向き合った途端、背後からおばちゃん。
「
プレゼントですか
」
は、早いっ
店員に声をかけるのは、もうちょっと、あれこれ物色してからにするつもりだったのですが、よく考えたら、もう閉店間際。
仕方なく(

)、こちらも用件を伝えて、サッサと品物選び。
さすがベテランだなと感心するのは、「買うか、買わないか」ではなく、たちどころに「どれを買うか」モードに持っていく、その話術。
私の性格としては、通常なら逃げモードに入っちゃうところですが、今回に限っては何としても残り15分で best choice に辿り着かねばならないため、むしろ種々リクエストを伝えて、
派手すぎず地味すぎず、
ちょっと特別感はあるけど普段使いできて、
本人が選ぶだろう色味よりは気持ち冒険気味の、
そんなところを見繕ってもらいました(笑)
でもって、とりあえず、
mission complete
f^_^;)(なぜか、息子が一番盛り上がってました)
* * * * *さてさて。
「巣籠もりの文学」シリーズですが、もう1つくらいは選ばないとカッコがつかないかなと、少し趣向を変えて、こちらを選びました。
『完訳 ロビンソン・クルーソー』ダニエル・デフォー著/増田義郎訳・解説
中公文庫、2010年(ハードカバー版は2007年)
ま、彼の場合、自分から「籠もった」ってわけじゃないですけど、何しろ27年間も籠もってたわけだし、結果として「籠もって暮らす人たちを描いた物語」にはなってるかなと
f^_^;)でもって、昨今のコロナ禍で再注目されるD. デフォーの代表作という意味もあり、取り上げてみました。
* * *あまりに有名なので、『ガリバー旅行記』と同じくらい、誰しも幼少時に<子ども向け版>を読んだことがあるでしょうが、やはり『ガリバー旅行記』と同じくらい、大人向けの完訳版は読まれていない作品ではないでしょうか

ただし、ともに社会派の作品ながら、『ガリバー旅行記』が社会批評(風刺)であるのに対し、『ロビンソン・クルーソー』は国威発揚…とまではいかなくとも、海外進出へのポジティブなメッセージを含んだ「経済小説」もしくは「グローバルビジネス書」でもあるという点で、両者は大きく異なると思います。
ちなみに、子ども向け漂流・冒険ものというと、私は『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ)を夢中になって繰り返し読んだものですが、こちらはまさに「冒険もの」ですね。
(なので、子どもの頃は断然こっちのほうが好きでした)
この『クルーソー』も幾つかの版がありますが、中公・増田版は増田氏による解説が丁寧で詳しく、面白いのでお勧めです。
では、なぜ「冒険小説」が「経済小説」なのか、という辺りを、増田氏の解説に沿いつつ、若干ご紹介。
* * *本書はある船乗りの回想録として出版された、という体裁をとります。
主人公の名はロビンソン・クルーソー。生まれは1632年、イギリス・ヨーク市の裕福な中流家庭。
ロビンソンはクルーソー家の三男として何不自由のない、しかし無為な生活を送っています。
「海へ出たい」「海外へ生きたい」と熱望しながらも、両親の強い反対を受けて逡巡するロビンソン。
しかし、ある日、父親の船でロンドンへ行くという友人に誘われ、両親に別れを告げることもなく船に乗ってしまいます。
これが1651年の(呪われた)9月1日、ロビンソン19歳のことでした。
こうして船乗り兼貿易商の道を歩み始めたロビンソンは、
ギニア交易で一儲けし、
ところがサレ(現モロッコ)でムーア人の海賊に捕らえられて奴隷となり、
脱走してブラジル行きのポルトガル船に助けられ、
そのまま南米に行き、現地で農場経営を始めます。
そして、事業を順調に拡大していた1659年のやはり9月1日、
安価な農場労働者を調達しようと奴隷貿易に出発したところで、
船が難破し、オリノコ川(現ベネズエラ)河口からほど近い(と思われる)無人島に漂着する…
こうして、かの有名な27年に及ぶ無人島生活が始まるわけですね。
* * *デフォーという人物はビジネス経験もあったようで、なかなか計数感覚に優れ、随所に<数字>や<品目名>、そして貿易・取引の詳細にこだわった記述が出てきます。
(そういえば、『ペスト』でも、どの地区で何人が死んだとか、やたら数値情報を載せていますね)
最初のギニア貿易では、40ポンドを元手におもちゃや雑貨を仕入れ、それをギニアで売って5ポンド9オンスの砂金を購入、それをロンドンで売って300ポンドを手に入れます。
また、ブラジルでも、小さな農地を購入して最初は食料生産に励み、それからタバコ、さとうきびの栽培に手を広げたり、ロンドンに預けておいた財産のうち100ポンド分を使い、自分で使う農機具のほかイギリス製の衣類・織物などを輸入し、それを売って資金を増やしたり。
当時、当然ながら、まだ海底ケーブルによる大陸間電信網は存在しませんし、細かい荷為替のやりとりなども出て来ないのですが、委任状などを使い、また商人や貿易船の船長を通して、高度な取引が行われていたことが窺われます。
* * *そしてもちろん、圧巻は無人島での生活で、これはもう、ほとんど農場経営あるいは植民地経営のミニチュア版と言っても過言ではありません。
鶏のエサ(ネズミに食われてしまっていた)の残りカスを捨てたら、そこから大麦と稲が生えたのを僥倖とし、島の気候・季節を理解したうえで穀物栽培を始め、
野生のぶどうから干しぶどうを作って保存食&栄養補給源とし、
野生のヤギをつかまえて家畜とします。
穀物栽培に、果樹園経営、そして畜産と、これらに関する記述が実に細やかで具体的・実践的なんですね。
具体的と言えば、洞窟を基盤とした住居の塀づくりや、島の周辺をカヌーで巡る際の潮流に関する記述も実に細かくリアリティがあって、デフォーはどうやってこれらの知識を得たのだろうかと、不思議に思うやら感心するやら。
* * *そして、もう1つだけ紹介しておきたいのが、時代背景との関わり。
17世紀半ばと言えば…、
アルマダの海戦でイギリスがスペインの無敵艦隊を破ったのが1588年。
ピルグリム・ファーザーズがニュープリマスに上陸したのが1614年、
第二次英蘭戦争により、ニューアムステルダムがニューヨークになったのが1667年。
つまり、スペイン・ポルトガルが海洋覇権を握っていた時代から、後発のオランダ、そしてイギリスが積極的に海外へ進出していった時期と重なります。
ただし、南米はまだスペイン・ポルトガルが圧倒的に支配しており、上述の増田氏によると、デフォーはこの中米カリブ海にイギリス進出の拠点を作るべし、という思いを込めて、この地にロビンソンを漂着させたと主張します。
実際(というのも変ですが)、帰国の途につくロビンソンは、残った英系人がこの地に植民できるよう計らうわけですが、それこそがデフォーの期待を表しているとも言えます。
そこで増田氏は、ロビンソンをして
「正常なイギリスのブルジョア社会から逸脱した流れ者のアドヴェンチャラーではなく、むしろ17世紀当時のイギリスの海外商業活動の生み出したもっとも典型的な型のひとつを代表している」
と喝破し、
「オリノコ川の入口を望み見るロビンソン・クルーソーの眼差しの中には、そこ南アメリカ本土にイギリスの植民地を獲得したいという、ウォルター・ローリ以来のイギリス人の期待と願望がこめられていたのである」
と結ぶのでした。
そうした背景を踏まえると、本作品が、無人島に隔絶された個人の物語のように見えて、実は17世紀の国際政治経済を色濃く反映していることが垣間見え、何倍もおもしろく読むことができます。
大人になってこそ、読むべき1冊かなと。
…あ、何となく、まとめちゃいました
f^_^;)