2020年7月18日(土)
これで、終わりにしますね。
前回ご紹介した3冊を4段階(◎○△×)評価すると、
『シンコ・エスキーナス街の罠』…△
『フリアとシナリオライター』…○
『都会と犬ども』…×
…って感じでして、「
さて、どうしようか、私には合わないのかな」と迷いつつ、彼の著作リストを眺めながら、「
じゃ、あと1つ2つ…」と選んだのが、この2点。
* * *じゃ、まずこちらから。
『緑の家』木村榮一訳、岩波文庫
これも面倒な話なんですけどね、ペルーのとある街に男がふらりとやってきて、橋の向こう、街と砂漠の境目あたりに娼館を建てるんです。
これが、「緑の家」(追って、もう一つ出てきますが)。
この男と娼館が街に幾つもの事件や騒動をもたらし、やがて娼館が焼かれ、そして男が死ぬまでの物語が軸にあって、そこにまつわる人々の4つの物語が地域と時代と人種を交錯させながら展開していくという仕掛けです。
最初はどうつながっているのかが理解できず、
(とくにエピソード間の時間軸上の前後関係とか)
おまけに描写は長いし、なかなか進まないしとイライラするんですが、
人物も設定もなかなか魅力的で、展開もおもしろいので、
「
つまり、我慢して読み進めろってことだよな」
と腹を括って先へ進むと、
南米文学らしい奔放さというか、溢れる生命感というか、野性味・野蛮さというか、
そういう、しぶとさ、したたかさ、悲劇を乗り越えていく力強さというか、
やはり…、生命力というのでしょうか。
そしてラストも、哀愁のなかに一種の祝祭的な爽やかさがあって、後味がいい。
各エピソードも、きれいに収斂していくという感じではないんですが、
湖底の澱のように積み重なっていくような、
最終的には「しっくり感」が生まれます。
緻密とは思わないし、やや冗長かとも感じますが、まあ、読んで悪くはなかったかなと。
* * *で、お次はこちら。
『楽園への道』田村さと子訳、河出文庫
これはですね、ポール・ゴーギャンと、その祖母で社会改革運動家のフローラ・トリスタンの話が交互に展開する話です。
ゴーギャンは、タヒチに行って現地の人々を描き、西洋文明に毒されず、教会権力に抑圧されていない本来の人間性みたいなものを追求していくわけですが、これが一方の「楽園」。
もう一方のフローラ・トリスタンはもともとフェミニズムと言いますか、男性の奴隷と化している女性の権利向上を目指し、さらに資本家に搾取されている労働者の生活向上を目指し、女性および労働者階級の団結による労働組合運動を展開します。これが、もう一方の「楽園」。
そして双方のストーリー中に、
「ここは楽園ですか」
「いいえ、次の角を曲がって…」
と子どもたちが遊んでいるシーンが挿入され、
「楽園探し」というテーマが暗示されます。
で、その間にはフローラの娘にしてゴーギャンの母であるアリーヌがいて、それぞれの物語に少しずつ登場します。
(ただし、フローラの人生においても、ゴーギャンの人生においても、アリーヌの存在感は薄い。とくにゴーギャンのストーリーのなかでは)
加えて不可解だったのは、
(たぶん)作者が、ゴーギャンとフローラに「〜だったよね」的に語りかけてくる。
「
あなたは何をしに現れ、なぜそんなことを言うのか
」
読者として、
ゴーギャンとフローラの人生には寄り添えるけれども、
あたなには共感できません

っと言いたくなって、
正直なところ、作品への没入を邪魔されている気分でした。
ただ、そんなことより一番ストレスだったのは…、もう、
長〜〜〜〜い(>_<;)ゴーギャンは自堕落な生活から、フローラは根を詰めすぎて、それぞれ体を壊して死んでいくのですが、死にそうになったところで、
「
え、まだ半分しか進んでないじゃん」
と驚き、そこからは双方とも同じような話がそれぞれ続いて、冗長きわまりない。
ただ、あえて1つ言えば、
両ストーリーとも、ラストには一種の清々しさがあって、後味は悪くないかなと。
(上記『緑の家』と同じようなコメントですが、上記ほどではありません)
「何だかな〜、これは」と思っていたら、寺尾隆吉氏が、
『100人の作家で知る ラテンアメリカ文学ガイドブック』勉誠出版、2020年
のなかで、本作を
十分にフィクション化しないまま史実を題材として利用する〜と評しており、
「
なるほど、そういうことか」
と、とても合点がいきました。
* * *というわけで、評価は、
『緑の家』…○
『楽園への道』…(×に近い)△
何と言いましょうか、
ついついガルシア=マルケスと比べてしまう私が悪いんでしょうが、
ガルシア=マルケスの作品は、幻想的であれ、リアリスティックであれ、自由自在にして奔放、エネルギッシュでありながら「きちんとしている」というか、パワフルなのに制御されていて、かつ言葉もストーリーも練り込まれている印象なんですよね。
対して、バルガス=リョサの作品を読んでいると、
ざっくり
という印象を持ってしまうんです。
* * * * *さてさて。
これから、どうしようかな。
上記『楽園への道』には、訳者・田村さと子氏による丁寧な解説がついていて、それを読んでいると、
『
世界終末戦争』は読んでみたいな〜という気になり、
『
ラ・カテドラルでの対話』は読むとシンドそうだな〜と思いつつ、これを読まないとバルガス=リョサを読んだとは言えないんじゃないかとも思われ、
…
しばらく別方向を彷徨ってから、
また気が向いた頃に読んでみるのがいいかなと、
とりあえず、思ってます。
以上、お付き合い、ありがとうございました
m(_ _)m
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