
2012年10月12日(金)
ブログ、さぼりがちです

風邪が長引いておりまして、かつ仕事のピークも長引いておりまして(つまり、遅れておりまして)、今週はごまかしながらやっつけておりましたが、どうにか喉の痛みがおさまり、あとは少し咳が残る程度となってまいりました(仕事は来週までピークですが)。
と、そんなところで、今週もどうにか連載します、「おすすめ絵本」でございます
m(_ _)m◯121
『青いナムジル』文・寮美千子 画・篠崎正喜、2002年11月1日、パロル舎、1700円
<あらすじ>昔々、大草原の小さなゲルに、ひとりの男の子が生まれました。
名前は
ナムジル。
ナムジルは、やさしく、馬や羊とも兄弟のようになかよくできる青年に成長しました。
ナムジルが話しかけると、どんな頑固な馬も素直になります。
ナムジルが歌うと、羊たちもすっかり安心して眠りにつくのでした。
ある日、ナムジルは村の決まりに従い、兵士として西の果ての地を守りに行くことになりました。
ナムジルは馬や羊と別れるのが辛く、年老いた両親のことも心配でしたが、仕方ありません。
西の果ての警備につくと、動物の世話が上手なナムジルは、馬やラクダの世話係になりました。
ナムジルは毎朝、馬を湖に連れて行きました。
そして、同じく馬の世話をしていた娘と出会い、2人は恋に落ちました。
2人は毎朝、湖のそばで会います。
ナムジルは、まだ暗いうちにテントを抜け出し、夜が白々と明けるまで、娘と語り合うのでした。
* * *いくつもの春が過ぎ、新しい春がめぐってきました。
ナムジルは務めを終え、故郷に帰ることになりました。
ナムジルは、湖のほとりで娘にいいます。
わたしは、故郷に帰ります。
どうか、わたしの妻になって、いっしょにきてください。しかし、娘には年老いた両親がいるため、この地を去ることができません。
代わりに、娘は一頭の馬をナムジルに差し出します。
この馬に乗って、きっとわたしに会いにきてください。でも、ナムジルの故郷からこの西の地までは、どんなに速い馬でも一月はかかるのです。
ナムジルは馬に乗って去り、
娘はその後ろ姿を見送りました。
* * *故郷に帰ったナムジルを、両親や村人が歓迎してくれました。
しかし、西の地の娘を想い、ナムジルの心は晴れません。
ある夜、ナムジルは娘がくれた馬に乗って、あてどもなく走りました。
ナムジルは歌います。
娘よ。おまえに会いたくて、会いたくて、ならないのだ。
ああ、花の香りのする娘よすると、馬の背に銀色に輝く翼が生え、草原の上を滑るように駈けて、娘の待つ西の果てへと連れて行ったのでした。
その夜から、2人は再び湖のほとりで会うようになりました。
* * *立派な羊飼いになったナムジルに、結婚の申し出がきました。
相手は、裕福で太陽のように美しい娘です。
しかし、ナムジルは心を動かしません。
裕福な娘は、悔しくてならず、ナムジルの愛する女を突き止めようと、彼を見張りました。
すると、月夜の晩、ナムジルは翼ある馬に乗って、西の空高く駈けてゆくではありませんか。
裕福な娘は、裁ちばさみを持って待ち伏せすると、帰ってきたナムジルが休んでいる間に、馬の翼を断ち切ってしまいました。
* * *息絶えようとする馬に、ナムジルの涙が降り注ぎます。
まるで、草原に降りしきる雨のように。
すると、
馬の頭は木の彫り物に、
首は棹に、
胴体は皮を張った函になり、
美しく長い尾は弦と弓になり、
こうして、1つの楽器が生まれました。
ナムジルは、
馬を想い、
西の果ての娘を想い、
涙を流しながら、
いつまでも、いつまでも、その楽器を弾き続けました。
<感想など>はい。「馬頭琴」誕生の物語です。
馬頭琴伝説はいくつもあるようで、おそらく日本人の圧倒的大多数は『スーホの白い馬』のほうになじみがあると思います(近年の教科書に載っているかはわかりませんが)。
しかし、巻末の<解説>によると、モンゴルではこの『フフー・ナムジル』のほうが有名だそうです。
ただし、「フフー」とは「かっこう」のことで、本来は「かっこうのように歌がうまいナムジル」という意味なのですが、「フフ(青い)」の意味にもとられることから、本作品では「草原の空のように澄んだ青」のイメージを優先させたとのこと。
(その他の点でも、本作は伝承の再話というより、伝承を題材とした創作と位置づけるべきもののようです)
また、多くの民話・伝承と同じく、この『フフー・ナムジル』にも各種ヴァリエーションがあり、西の果ての娘が、湖に住む竜王の娘だったり、山に住むアルタイの女神だったりという言い伝えもあるようです。
さらに別ヴァージョンでは、
・ナムジルが出兵する際に故郷に残したのは、妻子であった
・ナムジルは帰郷後も浮気をやめられなかった
・それに気づいた妻が激怒し、馬を殺してしまった
とまぁ、とっても説得力とリアリティに満ちた、男心に染み入る(?)ストーリーになっていたりもします。
それから、馬が楽器に変身するよりは、主人公が馬の屍骸を材料に楽器を作成するヴァージョンが主流とのこと。
幾時代を経てきた古い物語について調べると、それぞれの物語が「歴史」を持っていることに気づかされ、とても興味深いです。
そこで、名言をご紹介。
未来の民話を 今、語る
あきら
by さねとうあきら氏でした。