
2012年6月16日(土)
アップが遅れてしまいました。
「
差し出す者メドレー」のラストを飾るのは、こちらです

◎62
『幸福の王子』オスカー・ワイルド 原作 曽野綾子 訳 建石修志 画、2006年12月24日、バジリコ、1,000円(The Happy Prince, by Oscar Wild)
ご存知、オスカー・ワイルドの名作です。
『幸福の王子』には何種類もの版があり、それだけ繰り返し出版され読み継がれてきたという証なのですが、そのうちのいくつかを読み比べてみて、研ぎすまされた訳と緊張感のある画から、私は
バジリコ版を選びました(もっとも、本書は「絵本」に分類されないかもしれませんが

)。
では、こちらのパターンを確認しつつ、物語をたどってみましょう。
4. 初期状態:
富 
最終状態:
貧 
結果:
* * * * *<富>町を見下ろす高い円柱の上に、「幸福の王子」の像は立っていました。
全身は金箔でおおわれ、目はサファイア、刀の柄にはルビーが光っています。
町の人々は、王子の美しさを褒め讃え、敬ったのでした。
<貧>あるとき、一羽のつばめが王子の足元に降り立ちました。冬を前に、南のエジプトへと渡る途中だったのです。
王子の涙でびしょ濡れになったつばめは、驚いて訳を聞きます。
王子は、貧しい人々の飢えと悲しみに、心を痛めていたのでした。
そして王子は、つばめに頼みます。自分の体に付いている宝石を、彼らに恵んでやって欲しいと。
しかし、つばめは断ります。彼は南に行かねばならないのです。冬が来れば、つばめは凍えて死んでしまうでしょう。
それでも、最後には王子の懇願を受け入れ、もう一度だけ、もう一日だけと、つばめは王子の使者を務めます。
そして王子の両目が見えなくなったとき、つばめは王子の元にとどまることを決意します。
王子は、自らの体をおおう金箔を人々に分け与えるよう、つばめに頼みます。
…やがて冬がやってきて、
力尽きたつばめは、王子の足元で死に、
灰色のみすぼらしい象となった王子の鉛の心臓は、寒さと悲しみで二つに裂けてしまいます。
<結果>天上で、神様が天使にお命じになりました。
この町でもっとも尊いものを持ってきなさい。こうして、二つに割れた王子の鉛の心臓と、冷たくなった小さなつばめの亡骸は、神のもとへ召されたのでした。
* * * * *献身と博愛を示す、一つの頂点に位置する作品だと思います。
富を失い、美しさを失い、視力を失い、人々の尊敬と愛情を失い、それでも人々にすべてを捧げる王子。
そして、それ以上に、その王子のために己の命を投げ出す、つばめ。
そこにあるのは、人々のため、命を賭して我に仕えよと要求する
王子と、一度ならず拒みながらも、ついにはその命を捧げる
つばめの、
愛と
緊張と
葛藤と、そして
狂気です。
そう、私の理解では、この作品の主人公は圧倒的に「
つばめ」であり、「
差し出す者メドレー」の最後を飾るのもまた、この「つばめ」でなければなりません。
<結果の
について>王子とつばめは天使によって天上へと運ばれ神の祝福を受けますので、「至上の幸福」を得たとも言えますし、実際「こうして王子とつばめは、天国でいつまでも幸せに暮らしましたとさ」的なラストにしている版もあります。
しかし私は、この作品が
Happy endだとはどうしても思えません。
町の人々は相変わらず愚かで、王子もつばめも報われるどころか、ひどい仕打ちを受けます。
私は、2人の魂を受け入れる天国の側というよりはむしろ地上から送り出す側の目線、大切なものが失われてしまう際の、尊いものが神に召される際の、厳かな悲しみを感じます。
皆さんはいかがでしょうか?
<ちなみに>なお、本作品の末尾には、曽野綾子氏による「
あとがき」が付されていて、これが本編に劣らず研ぎすまされた、迫力と鋭さのある文章になっています。
曽野綾子という作家は、なんと、「
凛」とした文章を書くのでしょう。
私も、いつかはそんな文章を書いてみたいと思いました。
これにて、「差し出す者メドレー」はおしまい。